本能で感じる、狂気＝日常の歪んだリアリティー

映画館でしかお目にかかれないMADな作品ってのがある。88年の衝撃の初公開から数えて11年。とてつもなく凶悪で美しいこの映画は、過去再上映の機会にも恵まれず、今後も一切ビデオ化の予定はないという。そんな経緯が映画の内容とも相まって、カルトな人気の呼び水となってしまった…というのが私のこの作品に対するつたない認識である。 　ある種の人間の日常を淡々と綴った…と言うと、なぁんだ別に大した内容じゃないぢゃん、と貴方は思うかもしれないが、「ある種の」というのが実は曲者。出演者はどいつもコイツもとんでもない（と一言では言い切れないほどの）ヤツなのだ。一見マトモそうに見える石川という男は、殺した人間の内臓をマネキンに詰めて毎晩ほおずりする性癖の持ち主だし、そのマネキンに横恋慕（！）する精神薄弱ぎみの浮浪者は、彼の留守を見計らって夜（昼）這いをかける毎日。石川の勤務先の小人症の管理人兄妹は、「こんな身体じゃ一生男を知らないで終わるかもしれないから」との父の遺言で、毎年妹の誕生日に仏前で（!!）身体を合わせる事になっている。 　「ハトポッポ」のぞっとするハミングで始まるオープニング。ターゲットを物色するかのように石川の視線は路地をさまよい、たまたま公園に居合わせた傷痍軍人に、その鉄拳は降り降ろされる…そんな弱者への血も涙もない暴力描写は、ホームドラマで某ナガブチなんかが人を蹴飛ばすのとはワケが違うのだ。逃げ場のないタブー＆差別の嵐。四方を固められて、引くしかないシーンのオンパレードなんである。 　だが感情を逆撫でされ、様々な嫌悪感を揺さぶられる一方で、こんな生き方ってアリなのかも、という意識が頭をもたげてくるからオソロシイのだ。演出＆映像の説得力も尋常じゃないが、何よりその人間にとっての日常＝ノーマルを描ききっているから、イヤでも彼らの体温を感じざるを得ない。単なるヒトゴトとして傍観していられないのは、多分その根底に「本能」という全人間共通の意識が大きく横たわっているからだろう。と、私は思う（コトにした）。犯罪の性格・精神分析は、意識をホシの感情や考えに同化させる所から始まるというが、この映画は決して鬼畜ムービーなどではなく、（社会的）異常者と自分が勝手にシンクロしてゆく焦躁感（または快感）をたっぷり味わえる怒涛の娯楽作品なのである（しかし2〜3日は虚脱感に襲われるのも事実）。次回再上映の予定は神のみぞ知る---------が、機会があれば一度は見ておいて欲しいもんである。社会経験の一環として（！）心臓にケの一本も生やしたいヒトにはオススメだ。 　 　コワイんですその１：石川の半透明な微笑み。 　ラスト近く、川沿いの道をいつものようにぶらつく石川。その先には風ぐるまの露店が。眠そうな店主に石川の目がフト止まる。歩をゆるめながら、店主に気づかれぬようズボンの後部ポケット（凶器の釘抜きが隠されている）に腕を伸ばす石川。だがそこに釘抜きが無い事に気づいた（前のシーンで落してしまった）彼は、その瞬間フッと微笑するのである。フッと微笑するのである。フッと微笑するのである（しつこい）。表層化した混じりけのない狂気に背筋がオゾゾーッ。 　コワイんですその２：どこまでも黒い遊び心。 　たま〜に見られる監督のちゃめっケ（のようなもの）。例えば小人症のふたりの近親相姦のシーン。奮闘する（！）兄と冷めた妹の表情をとらえていたカメラが引くと、２人の布団はなんとデカイ「のし袋」仕様になっていたりするセンス。笑えないぞう。

前人未到・・ ★★★★ 愛情物語 ★★★★ 育毛効果 ★★★★ 総合評価 84／100点 　注：★５つが最高。 　評価は独断と偏見によるモノです。 　 脚本・監督　松井良彦 欲望プロダクション作品、 1988年度作品 【出演】 佐野和宏、隈井士門、 村田友紀子、大須賀勇、 日野利彦、白藤茜、 仲井まみ子　ほか 　 偏執的にマネキンを愛する石川。彼女 （マネキン）に命を吹き込むため、無 差別に女性を殺めては、内臓を注入。 念願叶って？遂にマネキンは妊娠する…。 演じる佐野氏は元々ピンク映画の男優。 裸＆エロシーンもお手のもの。異質な フェロモン（と呼んでいいのか？）放 つ怪演の人である。

↑第２の主人公、名無しの浮浪者。恍惚の人ゆえ、台詞は「コンバンハ」「コンニチハ」のみ。石川がマネキンに仕込んだガラス破片で大怪我。 ↓哀れ、石川の最期。運動場のワキを通りがかったその瞬間、生徒の投げた砲丸が後頭部を直撃。おびただしい鼻血と共に彼の身体は地に崩れ落ちるのだった……ジーザス。 ↑後半に登場する、もうひと組の兄妹。兄は妹（聖性の象徴である）を襲い、均衡を自らの手で壊してしまう。兄の行為を責めるように妹の処女血（ううッ）は流れ続け、彼女はそのままこと切れる。ショックで兄は人格破綻。愛しい妹の肉をむさぼり喰う…とまるで残酷お伽話のよーな（！）この兄妹のエピソード。美しすぎて、劇中かなり浮いていた。

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